気を失う前に呟いた言葉を彼は忘れているらしい。
全身が凍るような気がした。
終わるかもしれない、とは思った。だが、本当に終わりがくるらしい。
笑いだしたい気分で携帯を壁に叩きつけた。こんなもの、もういらない。
なにもかもがうっとおしい。やっと手に入れたたった一つのものだってすぐに泡沫に消えるなら、なにもいらない。なにもほしくない。
自分がなにを得たいのかもわからないままに彼を貪る。
ポラロイドなんてただの気休めだとわかっているのに、彼が写真を撮る。

閉鎖空間が発生した。
拒否をすること、それがこどもの我儘でしかないことなんて承知している。知らず課せられた役割なら捨て去ってしまいたい、冗談だってそんな一言はいえない。いえなかった。きっと彼はそれをわかっていた。引き留めるみたいに伸びてきた腕に責任を押しつけて、僕は世界から背をそむける。
背中に残る古い傷跡の上、もう幾筋も刻まれている彼の爪跡だけが僕の存在を肯定してくれるような気がする。もっと傷をつけてほしくて彼にすがりつく。
癒すふりをして這いまわる彼の舌はまるで傷口をえぐるようで、なにも言わない彼の、言外の執着を感じた気がした。
もうすぐ、世界が終わる。
なにごともなかったように、一日目の朝がくる。
そのときにはもうすこし――いまと違った選択ができればいい、と願う。


彼が泣いている。
ふと気づいた。彼は、僕のために、いや、きっと、僕の代わりに、泣いているのだということに。
もうずっと、憎みながらあいしていた。そのありふれた陳腐さを実感するほど。
告げることなんてできるはずもないけれど。



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